それならばこっちにも料簡がある。最後の邪魔をする奴は片っ端から切りまくって、一旦はここを落ち延びて、人の見ないところで心静かに籠釣瓶を抱いて死のうと、彼は八橋を切った刀の血糊をなめて、階子の上がり口に仁王立ちに突っ立って敵を待っていた。くるわの火消しがまっさきに駈けあがったが、その一人は左の肩を切られて転げ落ちた。つづいて上がろうとした一人も、手鳶を柄から斜めに切られて、余った切っ先きで小手を傷つけられた。狭い階子の上に相手が刃物をふりかざしているので、誰も迂闊に寄り付くことができなかった。みんなは店から煙草盆を持って来て二階へ投げあげた。茶碗や小皿なども投げ付けた。 「屋根から窓の方へ廻れ」と、誰か叫ぶ者があった。 逃げ路を塞がれては不便だと気がついて、次郎左衛門は敵の廻らないうちに、自分から先きに窓を破って大屋根の上に逃げて出た。風は暁け方から吹きやんで、三月の朝の空は眼を醒ましたようにだんだんに明るくなった。幾羽の鳩の群れが浅草の五重の塔から飛び立つのが手に取るようにあざやかに見えた。眼の下の仲の町には妓楼や茶屋の男どもが真っ黒に集まっていた。 幼稚園会計・幼稚園監査・幼稚園税務 銀座の悠和会計事務所 yourdomain.com ? View forum - Your first forum
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