やがて茶をのんでしまった頃に、真弓の声が聞えた。小声ながらも凛としているので、遠いお菊の耳にもよく響いた。
「のう、播磨。この頃の不行跡、一々にやかましゅうはいうまい。きっと改むるに相違ないか」
「は」
播磨の返事は唯それだけであった。
「心もとない返事じゃのう。確かに誓うか、約束するか」と、真弓は重ねていった。「世の太平になれて、武道の詮議もおろそかになる。追従軽薄の惰弱者が武家にも町人にも多い。それは私とても浅ましいことに思うています。さりとて侍が町奴の真似をして、八百八町をあばれ歩くは、いたずらにお膝元を騒がすばかりで何の役にも立つまい。万一の時には公方様御旗の前で捨つる命を、埒《らち》もない喧嘩口論に果したら何とする。それほどの道理を弁《わきま》えぬお身でもあるまい。もし又、武士と武士とが誓言の表、今更白柄組とやらの仲間を引くことがならぬとあれば、わたしが水野殿に会うてきっと断わって見せます」
何さまこの伯母御ならば、白柄組の頭と仰ぐ水野十郎左衛門を向うに廻して、理を非にまげても自分の言い条をきっと押通すに相違あるまいと、お菊もひそかに想像した。しかし無暗にそんなことをされては、主人が恐らく迷惑するであろう。何といってこれに答えるかと、彼女は耳を引立てて聴いていると、果して播磨はあわててそれをさえぎった。
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