宿命に忍従しようとする不安で逞しい勇気と、救いを信ずる寂しく敬虔な気持とが、その後のくめ子の胸の中を朝夕に縺れ合う。それがあまりに息詰まるほど嵩まると彼女はその嵩を心から離して感情の技巧の手先で犬のように綾なしながら、うつらうつら若さをおもう。ときどきは誘われるまま、常連の学生たちと、日の丸行進曲を口笛で吹きつれて坂道の上まで歩き出てみる。谷を越した都の空には霞が低くかかっている。 くめ子はそこで学生が呉れるドロップを含みながら、もし、この青年たちの中で自分に関りのあるものが出るようだったら、誰が自分を悩ます放蕩者の良人になり、誰が懸命の救い手になるかなどと、ありのすさびの推量ごとをしてやや興を覚える。だが、しばらくすると 「店が忙しいから」 と言って袖で胸を抱いて一人で店へ帰る。窓の中に坐る。 徳永老人はだんだん瘠せ枯れながら、毎晩必死とどじょう汁をせがみに来る。 木のがま口 仇を恩で報いる
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