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 五百石の殿様と吉原の花魁がこの雨の中を徒跣足で落ちて来るとは、よくよく思い合っていればこそで、ただひと口に無分別のふしだらのと悪くばかり言う訳にもいくまい。二人の身になって見たらば、又どんなに悲しい切ない事情が絡んでいるかも知れない。お家も勿論大切ではあるが、こうまで思い詰めている若い二人を無理に引き裂くのは、小雀の眼に針を刺すという世の諺よりも、猶更むごい痛々しい仕方ではあるまいか。  困ったことではあるが、もう仕方がない。無理もない。後はともあれ、差しあたってはお世話するよりほかはあるまいと、お時も迷わずに思案を決めた。 「よろしゅうござります。綾衣さまは確かにお預かり申しました。しかし殿様はお屋敷へお帰り下さりませ。お判りになりましたか」 「むむ。おれまでが厄介になろうとは思わない。女だけをなにぶん頼むぞ」 「かしこまりました」  外の雨は颯としぶいて、古い雨戸はがたがたと揺れた。 CSR 可惜花を散らす
 
 
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