「八橋」
思わず振り仰ぐ八橋の頭の上に、さっという太刀風が響いたかと思うと、彼女の首は籠釣瓶の水も溜まらずに打ち落されて、胴は階子に倒れかかった。兵庫に結った首は斜に飛んで、つづいて登ろうとする浮橋の足もとに転げ落ちた。浮橋も女房も、はっと立ちすくんだままで声も出なかった。
丁度そこへ次郎左衛門を迎いの駕籠が来た。駕籠屋がおどろいて口々にわめいた。近所の者も駈けて来た。
「逃げ隠れする者でない。次郎左衛門はここで切腹する。見とどけてくれ」と、次郎左衛門は二階から叫んだ。しかし彼が最後の要求は誰にも肯き入れられなかった。
「人殺しだ、人殺しだ。逃がすな、縛れ」
立花屋の店先には人の垣を築いた。聞き分けのない奴らだと次郎左衛門は憤った。卑怯に逃げ隠れをするのでない。ここで尋常に自滅するというものを、無理無体に引っくくって生き恥をさらさせようとする。
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