野末源之丞の屋敷へ呼出された半田屋九兵衛。薄々娘との関係を感付かぬでもなかったので、これはきっと金三郎様に取られぬ前に、娘を所望されるのではあるまいかと、そういう心配をしながら罷り出た。 「や、九兵衛。今日は一大事の密議じゃで。遠慮は入らぬ。近う」 「へえ」 「その方の宿泊人に、小笠原金三郎等の一行があろう」 「へえ、三人お泊りに御座りまする」 「恐れ多くも、御当主の御落胤と申立て、証拠の脇差を持って、御召抱の願いに魂胆致し居るとか。実際であろうな」 「能く御存じで、実は出羽様の天城屋敷御入りの為、差控え、御帰りを待って内々その運びにという事で……それを能くあなた様には御存じで」 「いや、拙者ばかりではない。既に出羽殿にも御承知」 「へえ――、えらいお早耳で」 「出羽殿より早速これを御上の御耳にも入れたところ、以ての他の事。しかしながら、浪人とあるからには家中同様の刑罰も加えられまい。見す見す騙り者と知れながらも、手の下し様もない事故。願いのままに一応は召抱え、その上にて、即座に切腹仰付けられるという、こうした御内意に定ったのじゃ」
厚木 歯科 天に跼り地に蹐む
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