回転する鉄棒、ベルト、歯車、野獣の様な叫喚を挙げる旋盤機や巨大なマグネットの間を、一人の労働者に案内されながら私達は油のこぼれた場所を探し廻った。が、喬介の推理を受入れて呉れる様な場所は見当らない。で、がっかりした私達は、工場を出て、今度は、二つの乾船渠の間の起重機の林の中へやって来た。其処で、大きな鳥打帽を冠った背広服に仕事着の技師らしい男に行逢うと、喬介は早速その男を捕えて切り出した。 『少しお訊ねしますがね。この造船所の構内で、茲一両日の間に、誰れか誤って機械油をぶちまけて了った、と言う様な事はなかったでしょうか? ほんの一寸した事でいいんですが――』 喬介の突拍子もない細かな質問を受けて、若い技師はいささか面喰った様子を見せたが、間もなく私達の眼の前の船渠を指差しながら口を切った。 『その二号船渠で、昨日油差しを引っくりかえした様でした。何んでしたら御案内しましょう。』
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