卑しむような眼をして、源三郎は半九郎の顔をじっと見た。半九郎がこのごろ祇園に入りびたっていることを彼も薄々知っていた。ことに今の口振りで、兄も半九郎もどうやら一つ穴の貉であるらしいことを発見した彼は、日ごろ親しい半九郎に対して、俄かに憎悪と軽蔑との念が湧いて来た。それでも自分自身が汚れた色町へ踏み込むよりは、いっそ半九郎に頼んだ方が優しであろうと思い返して、彼は努めて丁寧に言った。 「では、頼む。兄によく意見して下され」 「承知した」 二人は月の下で別れた。 「はは、源三郎め、覚ったな」と、半九郎は歩きながらほほえんだ。 彼の眼から見たらば、兄もおれも同じ放埒者と見えるかも知れない。誰が眼にも、うわべから覗けばそう見えるであろう。しかし市之助とおれとは性根が違うぞと、半九郎は肚の中で笑っていた。市之助は行く先ざきで面白いことをすればいい、彼はそれで満足しているのである。おれはそうでない。おれは市之助のような放蕩者でない。おれはお染のほかに世間の女をあさろうとはしていない。同じ色町の酒を甞めていながらも、市之助とおれとを一緒に見たら大きな間違いであるぞと、半九郎は浅黄に晴れた空の上に、大きく澄んで輝く月のひかりを仰ぎながら、お染のいる祇園町の方へ大股に歩いて行った。 差し歯 Блог.ру - ahou - 阿呆が酢に酔ったよう
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