「もし、旦那。若旦那のかたきは知れました」と、半七は小声で云った。 「え」と、こっちへ向いた三人の眼は一度に輝いた。 「お店の人間ですよ」 「店の者……」と、十右衛門は一と膝乗り出して来た。「じゃあ、さっきお前さんがあんなことを云ったのはほんとうなんですか」 「酔った振りしてさんざん失礼なことを申し上げましたが、科人はお店の和吉ですよ」 「和吉が……」 三人は半信半疑の眼を見あわせているところへ、女中の一人があわただしく転げ込んで来た。何かの用があって裏の物置へはいると、そこに和吉が首を縊って死んでいたというのであった。 「首を縊るか、川へはいるか、いずれそんなことだろうと思っていました」と、半七は溜息をついた。「さっき大和屋の旦那からいろいろのお話を伺っているうちに、若旦那とお冬どんのことが耳に止まりました。それから芝居のときに若旦那と同じ部屋にいたという和吉のことが気になりました。
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