「そうか。もう検視は済んだろうな。そこで、下手人の当りはあるのか」 「どうも判らねえようです」と、善八は云った。「なにしろ嬶はとりみだして、気ちがいのように泣いているばかりだから、何がなんだかちっとも判らねえようですよ」 「泣くのは上手だろうよ。女郎上がりだからな」と、半七はあざ笑った。「ところで善ぱ。おめえはこれから鳥越へ行って、煙草屋の伝介はどうしているか、見て来てくれ」 「あいつを何か調べるんですかえ」 「ただその様子を何げなしに見て来りゃあいいんだ。まご付いて気取られるなよ」 「ようがす。すぐに行って来ます」 「しっかり頼むぜ」 善八を出してやって、半七はすぐに本所へ行った。きのうは弟の葬式を出して、きょうはまた兄貴の死骸が横たわっているのであるから、近所の人たちは呆れた顔をして騒いでいた。
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